クロノス・ジョウンターの伝説

spirit272005-11-28

このタイトルだけで"時間テーマのSF"だと分かる人は、多分SF好きだ。
クロノスとは時を司る神、時間を象徴する意味で屡々引用される名だ。そしてジョウンターは「ジョウント」を動作者名詞にしたものだ。
ジョウントとはアルフレッド・ベスター作『虎よ、虎よ!』の重要な設定で、精神を集中することで瞬時に別の場所へ移動する方法だ(移動先と現在位置を完全かつ性格に視覚化出来、尚かつ目的地へ移動する為の精神エネルギーを引き出せる事が条件)。
"時をジョウントする"…実にストレートな表題である。
 
クロノス・ジョウンター、正式には「物質過去射出機」。しかしこれはタイムマシンとしては致命的な問題点があった。過去に飛んでも止まる事は出来ず、短時間でその時間軸から弾き飛ばされ、しかも出発点よりも未来に飛ばされてしまうのだ(効能に制限がある辺りも、1000マイルを越えられない、宇宙空間は越えられない"ジョウント"を意識しているのかもしれない)。
だがその不完全さ故に、デメリットをも厭わず時を遡る者の物語は切なく迫る。そして最後に、万感を凝縮し解放する瞬間が待っている。
その部分こそが"センス・オブ・ワンダー"であり、SFでしか成し得ない感動なのだ。時間SFはそれが最も顕著に表れる。
余談になるが、同じ種類の感動を喩えるなら、よく出来た落語のオチ、アニメ『宝島』の最終回ラストシーンのシルバー船長の振り向きだ。
 
この一冊に収められた4編の登場人物はそれぞれに"夏への扉"を見つけたのだ。
時間SF好みの僕としては、暫く梶尾真治に嵌ってみようかと思う。作中で触れられているロバート・F・ヤングの『たんぽぽ娘』も読んでみたいのだが、今は入手困難らしい…。