ゲイルズバーグの春を愛す by ジャック・フィニィ

ファンタジー色の強いSF短編集。大儀で時間テーマと言える作品が多い。
表題作「ゲイルズバーグの春を愛す」は、工場誘致により消えようとしている"古き町"が、時を越え自らを守ろうとする。
「クルーエット夫妻の家」は、100年近く前の設計図の通りに新築した家が、住人の夫妻に当時の記憶を見せる。
「時に境界なし」は、行方不明になっていた人物達が過去の写真の中に写っているというミステリー。
「愛の手紙」は骨董品の机に隠されていた手紙に端を発する過去との文通。
"時間"が絶対的な隔たりであるが故にそれらは劇的であり、切ない。

時間ものではないが、「独房ファンタジア」の甘美さは好ましい。
死刑囚が独房の壁に絵を描く。それは故郷の我が家の入り口の絵だ。羽目板の隙間から覗く家の中に、帰りを待つ妻の姿まで克明に描写する。
死刑執行直前まで彼は一心不乱に絵筆を振るう。そして奇跡が起こる。真犯人が捕まり、彼は無罪となったのだ。
信じられない事に、独房の壁の絵は扉が開き、出迎える妻の姿に変わっていた。
…読後に、時間SFの"遙かな隔たりが一瞬に繋がる"感覚を覚えた。

世にも奇妙な物語』の原点でしょうね。